近年、企業の脱炭素への取り組みが重要視される中、環境への取り組みを示す指標の一つとして「SBT認定」が注目されています。
本記事では、SBTとは何かをはじめ、パリ協定との関係や取得するメリット、認定までの流れ、日本企業の取り組み状況についてわかりやすくご紹介します。
SBTとは
SBTとは、「パリ協定」が求める水準と整合した、企業が5~15年先を目標として設定する温室効果ガス排出削減目標のことです。
「Science Based Targets」の頭文字を取ってSBTと呼ばれ、日本語では「科学にもとづく目標設定」という意味になります。
具体的には…
自社による部分的な対策ではなく、サプライチェーン全体や事業活動に関わる温室効果ガス排出量の削減が求められます。
Scope1 : 直接排出
自社の生産過程で排出される量(燃料の燃焼や工業プロセス等)
Scope2 : 間接排出
他社から供給された電気、熱・蒸気の使用により排出られる量
Scope3 : その他の間接排出
バリューチェーン全体で排出される量(配送や製品の廃棄など)
SBTとパリ協定の関係
2015年に採択されたパリ協定は、2020年以降の地球温暖化対策について、最新の科学的知見を踏まえた上で、世界共通の目標や行動方針を定めた国際協定です。
《長期的な世界共通目標》
・産業革命以降の気温上昇を2℃未満に抑える
・可能な限り1.5℃以内に抑える努力を追求する
SBTは、その目標に沿って企業が削減目標を設定する仕組みといえます。
SBT認定を取得するメリット
近年では、大企業だけでなく日本の中小企業でもSBT認定の取得が広がっています。
ここでは、SBTがもたらす具体的なメリットについて、3つ紹介いたします。
①投資家・消費者から信頼される企業になる
②明確な目標設定が、社内の連携とモチベーションを高める
③企業価値を高める経営改善と長期コスト削減効果
ひとつずつ解説していきます。
1.投資家・消費者から信頼される企業になる
SBT認定は、企業が科学的根拠に基づいた信頼性の高い気候変動対策を実行している証となります。この認定を取得することで、ESGを重視する投資家からの評価が高まり、資金調達や取引面で有利に働きます。
また、環境配慮型の商品やサービスを提供する企業として消費者からの支持を得やすくなり、ブランド価値の向上や新たな市場の開拓にもつながります。結果として、企業の競争力強化に寄与する重要な要素となります。
2.明確な目標設定が、社内の連携とモチベーションを高める
SBT認定は、外部からの評価だけでなく、企業内部にも大きな効果をもたらします。科学的根拠に基づく明確な削減目標を掲げることで、社員全員が共通の方向性を持ちやすくなり、取り組みへの理解や納得感が高まります。
こうした共通目標の存在は、社員のモチベーション向上や主体的な行動を促し、部署間の連携強化にもつながります。その結果、組織全体の一体感が生まれ、チームワークの改善や生産性向上といったプラスの効果を期待できます。
3.企業価値を高める経営改善と長期コスト削減効果
SBT認定を取得することで、エネルギー効率の改善や再生可能エネルギーの導入が進み、長期的なコスト削減が期待できます。これらの取り組みは、単なる環境対策にとどまらず、企業の経営基盤を強化する重要な要素となります。
さらに、CDPスコアなど国際的な評価が向上することで、企業の信頼性や透明性が高まり、持続可能性の強化やリスク管理能力の向上にもつながります。結果として、環境・経営の両面で競争力を高めることが可能になります。
認定の流れ
SBTの取得に向けては、所定の基準を満たすことで認定を受けることができます。ここでは、その認定条件や申請手順について整理して確認します。
《SBTの認定条件》
◆対象範囲
企業全体(子会社を含む)のScope1・Scope2に該当するすべての温室効果ガス
◆基準年
データが存在する最新年
◆目標年
申請時点から最短5年、最長10年以内
◆削減水準
・Scope1とScope2については、産業革命前比で気温上昇を1.5℃以内に抑える水準(年間少なくとも4.2%削減)を満たす削減目標を設定することが必須
・他社のクレジット取得による削減量や削減貢献量は、SBT達成に向けた自社の削減実績として算入することはできない
・Scope3排出量が、Scope1+2+3の総排出量の40%以上を占める場合は、Scope3の削減目標設定が必須となる
・Scope3については、産業革命前比で気温上昇を2℃を十分に下回る水準(年間少なくとも2.5%削減)を満たす目標を設定する
これらの基準に沿って温室効果ガス削減目標を策定した企業は、SBTiから「SBT認定」を取得することができます。
続いて、申請について詳しく確認していきます。
1.二つの種類
SBT認定には「SBT」と「中小企業版SBT」の2種類があり、SBTは、中小企業向けのSBTと区別するために、「通常版SBT」と呼ばれることもあります。
2.通常版SBT
まず、任意でコミットメントレター(2年以内にSBT設定を行うという宣言書のこと)を事務局へ提出することが可能です。コミットした場合には、SBT事務局、CDP、WMBのウェブサイトにて公表されます。
《コミットメントレターの申請手順》
①SBTiの公式サイトにアクセスし、申請書類をダウンロード
②必要事項の記入(企業名、日付、場所、署名)
③公式サイトより提出
④SBTiにより受理されると、SBTi公式サイトへ企業名とコミットメント日が掲載
次に、申請書の作成から認定取得後までの一連の手順を確認します。
《SBT認定の申請手順》
①申請書類のダウンロード
②目標を策定し、SBT認定を受けるための申請書を提出
・USD9,500(外税)の申請費用が必要で、最大2回の目標評価を受けることが可能
・以降の目標再提出は、1回につきUSD4,750(外税)の申請費用が必要
③SBT事務局が提出された目標の妥当性を審査し、結果を回答
④認定の場合、SBTウェブサイト等で公開
⑤認定後は、排出量や対策の進捗を年1回報告し、情報開示を行う
⑥設定した目標が引き続き妥当であるかを定期的に確認(少なくとも5年に1度)
3.中小企業版SBT
中小企業版SBT認定を取得するには、まず必須要件をすべて満たすことに加え、追加要件4項目のうち3項目以上に該当する必要があります。
《必須要件》
以下の5つの必須要件をすべて満たす必要があります。
□Scope1及びロケーション基準のScope2を合わせた二酸化炭素排出量が10,000tCO2e未満である
□海運船舶を所有または支配していない
□再生可能エネルギー以外の発電資産を所有または支配していない
□金融機関セクターまたは石油·ガスセクターに分類されていない
□親会社の事業が、通常版のSBTに該当しない
(SBTiが策定したセクター別基準に基づく目標設定を求められていない)
《追加要件》
上記の必須条件に加えて、次の4項目のうち3項目以上を満たす必要があります。
□従業員数250名未満である(パートタイマー従業員を含む)
□売上高が5,000万ユーロ未満である
□総資産が2,500 万ユーロ未満である
□FLAG(森林·土地·農業)セクターに属していない
※上記の条件を満たす場合でも、以下のいずれかに該当する場合は申請ができません。
- 不動産投資信託(REIT)を扱っている
- 商業目的の採掘活動に伴う化石燃料資産(石炭鉱山、亜炭鉱山など)からの収益が5%以上ある
- 化石燃料の販売・送電・流通による収益が50%以上、または化石燃料企業向けの機器・サービス提供による収益が50%以上ある
- 都市・地方自治体、公共機関、教育機関、非営利団体である
続いて、中小企業版SBT認定の主な申請手順についてです。
《中小企業版SBT認定の申請手順》
①サイトへの登録
②Scope1・Scope2の排出量を算定
③削減目標の設定
④SBTiに申請フォームを提出し、審査を受ける
⑤審査を通過すると中小企業版SBT認定が付与
日本企業の取り組み状況
世界的にSBT参加企業は年々増加しており、認定企業7,469社、コミット企業2,827社、合計10,296社に達しています。(2024年度末時点の最新データ)
日本の取り組み状況としては、認定企業1,479社、コミット企業84社、合計1,563社まで拡⼤しました。
日本では、特に電気機器業界や建設業界でSBT認定を取得している企業が多く見られます。
まとめ
今回は「SBT認定」について紹介しました。SBTを正しく理解することで、企業は5〜10年後を見据えた具体的な数値目標を設定でき、地球温暖化防止に向けた取り組みをより戦略的に進められるようになります。
さらに、サプライチェーン全体で温室効果ガス削減の目標を掲げ、SBT認定を取得することで、環境保全への貢献だけでなく、企業の信頼性向上やコスト削減など、事業面でのメリットも期待できます。
SDGsへの取り組みを始める第一歩として、SBTを活用することは有効な選択肢のひとつです。企業の未来を見据えた環境戦略として、ぜひ検討してみてください。


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